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   タイトル: 人事・労務問題相談室
   
労基旬報第1005号(平成8年9月25日)より


日常の職場で起こった人事・労務の法律実務や取扱い上の疑問に専門家がお答えしたものです。


賞与支給日前退職の者に支給日在籍要件を適用し、賞与の不支給措置をとることが可能か?
年間賃金で契約していた医師が理事と衝突し、 9月末日で退職することになりましたが、 年末に支給予定の賞与について勤務した割合分は受け取る権利があると主張して、 困っています。 就業規則では支給日に在籍しない労働者には賞与を支給しない旨定めていますので、 支払いの必要はないと思うのですがどうでしょうか。 なお、 年末賞与の計算期間は5月から10月までとなっています。 (神奈川・W病院)


支給日に在籍しない労働者には賞与を支給しない取り決めは 「支給日在籍要件」 と呼ばれ、 一般の月給制労働者には原則として有効に適用できると解されています。 明確に問題ありとされているのは、 会社都合による解雇者や支給日を延期した場合における本来の支給日以後の退職者だけだといってよいでしょう。
定年退職者については、 自己の意思による退職ではないため、 疑問が生ずるところですが、 就業規則に明確な定めがある場合などは適用できるとの方向で実務の考え方が固まってきたようです。
こうした考え方は、 就業規則 (労働契約) で賞与支給の要件として「在籍」が定められている場合は、 その要件を満たさない者 (支給日前退職者) に対しては支払い義務が生じないという契約理論に基づくものですが、 賞与は本来業績によって変動するもので労働者の請求権として確定していないことが、 そうした契約理論の適用を可能にしているということができます。
ところが、 賃金を年間単位で決めている場合には、 すでに成果や業績の評価を前提にして確定した年間賃金を便宜的に 「賞与」 の名称のもとに特定の月に配分して支給しているものですから、 一般の月給制労働者と同日に論じることはできないと思われます。
個別労働契約で明確に支給日在籍要件の適用を合意している場合は、 その取り決めが違法とまではいえないと思われますが、 そうでなければ年間賃金の場合は支給日在籍要件を排除する黙示の合意が含まれていると解すべきでしょう。
そして、 就業規則で定める基準を上回る労働契約は有効です (労基法第93条) から、 結局、 支給日在籍要件は適用できないことになります。
ご質問の医師は、 冬の賞与計算期間(5月〜10月)の6カ月のうち、5カ月(5月〜9月) 勤務したわけですから、 冬の賞与の6分の5は支払うべきだと思われます。 具体的には、 冬の賞与が300万円と決められていた場合は、 その6分の5である250万円の支払いが必要でしょう。
なお、 いわる年俸制でも同様の問題が起こりえますが、 その年の成果 (業績) によって賞与を変動させない、 確定的年俸制の場合は同じ結論になるのではないかと考えられます。



出向者の適切な転籍手続きは?
子会社に出向させている労働者をそのまま転籍させたいのですが、 どのような手続きを踏んだらよいのでしょうか。 一度復帰させたうえで退職させ、 改めて子会社と労働契約を結ばせるのが順序のように思えるのですが、 それでよいのでしょうか。 (東京・Oリゾート開発)


転籍とは、 会社との労働契約を解消して改めて転籍先会社との間で労働関係に入ることをいいます。 一般に労働契約では従業員としての身分を他の会社に移すことまでは予定されていませんから、 現在の会社との労働契約の解消、 転籍先会社との労働契約の締結の双方について労働者の具体的同意が必要だと解されています。
転籍のこうした性格からは、 ご質問のようにすでに転籍予定会社へ出向しているケースでは、 復帰後退職させ、 改めて転籍先と労働契約を結ばせるのが順序のように感じられると思われますが、 むしろその順序を逆にした方が適切です。 つまり、 まず出向している会社(転籍先)と労働契約を結ばせ、 その効力の発生により貴社との労働関係が消滅する、 と取り扱うのです。 難しいことばでは 「転籍先との労働契約の成立を停止条件として会社との労働契約が消滅する」 といいます。 会社を退職する法律効果が転籍先との労働契約の成立まで 「停止」 しているという意味です。
なぜ、 こうした仕組みが必要かといいますと、 先に会社との労働契約を解消すると、 仮に転籍先会社がその労働者をなんらかの事情で受け入れない場合は、 行きどころがなくなってしまうからです。
最近の裁判例は、 転籍の手続きがどうであれ、 会社との労働契約の消滅は転籍先との労働契約の成立が停止条件となっていると判断しています。 転籍をスムーズに実施するためにも、 雇用不安を予め排除できるこうした手順によるのが適切でしょう。



「出向元」が賃金を支払う出向者、どちらの労災保険に加入?
子会社のプロパー社員だけでは足りないので相当数の従業員を出向させ、 軌道に乗るまでは賃金を当社で支払います。 これらの労働者は当社の労災保険に加入させるべきだと思いますがどうでしょうか。 (北海道・P住宅建設)


労災保険は、 業務上災害に対する事業主の労災補償責任をカバーするものですから、 出向の場合は実際に業務の指揮命令権をもつ出向先会社の保険に加入することになります。 賃金を支払っているからといって、 出向元の保険に加入させることは適切でありません。
そしてこの場合の保険料の算定基礎となる賃金総額は、 出向元が支払った賃金を出向先が支払ったものとみなして計算することになります。
労働省は 「出向先事業主の指揮監督を受けて労働に従事している場合には、 たとえ当該労働者が、 出向元事業主と出向先事業主とが行った契約等により、 出向元事業主から賃金名目を受けている場合でも、 …当該金銭給付を出向先事業主が支払う賃金として…」 と通達 (昭35・11・2、 基発932号) しています。





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